データをもとに、世界を正しく見る習慣ということで、話題の本を読みました。私は天邪鬼なので、冒頭の「13の質問」については10問正解(といっても、出題の意図を汲んで当てただけで、知っていたわけではないですが)。なので、この質問セットにショックを受けたわけではなく、本の内容自体を評価しています。読んでなるほどと思ったし、広く読まれるべきだなと思ったので、こういうエントリを起こした次第。
ちなみに、著者はランダムセレクションをチンパンジーに例えているけど、チンパンジーが数学的ランダムさを維持して選ぶとは思えないので、ちょっとファクトフルじゃないんじゃないかと。そんなことを考える人間から見た、この本の面白いところを紹介します。
おっと思ったところ
まず驚くのは、ハンス氏の行動力と、徹底した現場主義。誰からも学ぼうとする姿勢。こういう素晴らしい態度が、生まれつきなのか、スウェーデンの教育の賜物なのかは興味深いところだけれど、そこについては特に言及がない。どうしたらこんなにもファクトフルな人が育つのか。と、いきなり脱線しました...ので、話を戻します。
この本には面白い話がいくつも含まれていますが、なかでも印象的だったエピソードを二つ紹介します。
一つ目、医学部の4年生だった著者がインドのバンガロールにある医学学校で学んでいた時の話。著者の思い込みが初めてひっくり返された時のことを、こう語っています。
まさか。額にしるしをつけて、ヤシの木の下で暮らしている学生が、私よりはるかに知識豊富だなんて?
(中略)
西洋がいちばん進んでいて、そのほかの地域は西洋に追いつけないなんて、とんでもない勘違いだった。45年前のその時、西洋の支配がそれほど長く続かないことが、私には見えたのだった。(p199)
45年も前に、こういう謙虚な姿勢で学ぶことができた西洋人がどれくらいいたでしょうか?
我々日本人も、昔の印象を引きずって、どこかで「日本が一番進んでいる」とか思っている場合があります。もちろん、今でも競争力を維持している部分もあるはずですが、もっとアジアの現在に目を向けるべきだろうなと思いました。
もう一つ、ずしんと響いたのが、アフリカ通を自認していた著者が、上から目線の考え方にとらわれていたことに気づかされるシーン。ここは圧巻だと思いました。アフリカ連合委員会のズマ委員長の言葉がこちら。
極度の貧困がなくなればアフリカ人は満足だと思ってらっしゃる?普通に貧しいくらいがちょうど良いとでも?
(中略)
じゃぁ、私の夢を言ってさしあげましょうか?それは、わたしの孫がヨーロッパに観光に行って、そちらの新幹線に乗ることですよ。スウェーデンの北に氷のホテルがあるって言うじゃありませんか。うちの孫がそこに泊まるようになるんですよ。だいぶ先のことですけど、きっとそうなります。(p234)
アフリカの成長のポテンシャルが、明快に述べられていると思いました。これまで何となく遠い存在だったアフリカが、ぐっと近くに感じられる、そんな逸話でした。
参考になるところ
著者がいくつかの本能を定義して、それぞれに注意を喚起しているのはわかりやすいと思うのですが、その中でも特に参考になると思ったのは下記の点です。
- 平均に注意。極端な数字の比較に注意。
- 「悪い」と「良くなっている」は両立する。
- 直線本能を避ける。S字、滑り台、コブ、そして指数的な増加。
- リスクを正しく計算。危険度x頻度。
- 8020ルール。一人当たりで比較。
- 分類を疑う。同じ集団の中の違い、分布と、違う集団との共通項。
- 古い知識をアップデートする。ゆっくりとした変化に着目する。
- 一つの視点だけでは説明できない。単純化への警戒。
- 犯人ではなく、原因を探すこと。
- 小さな一歩を重ねる。
そして何よりも、世界の暮らしを収入に基づいて4つのグループに分け、それぞれの類似性をデータで示すダラーストリート。これは本当に、目からうろこです。
こういう本が日本語で読める幸せに感謝しつつ、書評を終わります。編集者の方、翻訳者の方、ありがとうございます。
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